大判例

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東京地方裁判所 昭和54年(特わ)2998号 判決

(被告人)

(一)

本店所在地 東京都台東区千束四丁目四三番九号

楠本観光有限会社

(右代表者神奈川県川崎市幸区幸町一丁目七三五番地 新井登)

(二)

本店所在地 東京都台東区千束四丁目四三番九号

光陽商事有限会社

(右代表者神奈川県川崎市高津区北見方三六六番地 銀杏田和晴)

(三)

本店所在地 神奈川県横浜市中区曙町一丁目五番地

横浜起業有限会社

(右代表者神奈川県川崎市幸区幸町一丁目七三五番地 新井登)

(四)

本店所在地 神奈川県横浜市中区福富町西通四五番地の二

有限会社一福商事

(右代表者神奈川県川崎市幸区幸町一丁目七三五番地 新井登)

(五)

本店所在地 東京都台東区清川一丁目二四番一四号

瀬戸観光有限会社

(右代表者愛媛県松山市喜与町一丁目五番一号 ケミビル七〇三号 奥山博久)

(六)

本店所在地 東京都台東区上野七丁目一〇番八号

松山観光有限会社

(右代表者愛媛県松山市喜与町一丁目五番一号 ケミビル七〇三号 奥山博久)

(七)

本店所在地 福岡県北九州市小倉北区舟町七一番地の七六

有限会社福岡城

(右代表者福岡県北九州市小倉北区黄金二丁目七番一号 竹村ビル三〇一号 古三庄良江)

(八)

本店所在地 東京都台東区上野七丁目一〇番八号

西日本起業有限会社

(右代表者千葉県千葉市南生実町九四番地の四六 斎藤憲康)

(九)

本店所在地 東京都荒川区六丁目三四番三号

大栄観光株式会社

(右代表者東京都荒川区荒川六丁目三四番三号 小塚)

(十)

本籍 東京都新宿区新宿一丁目二五番地

住居

東京都台東区清川一丁目二四番一四号

会社役員

山村鉄夫

昭和三年三月九日生

右の者等に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官八代宏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社楠本観光有限会社を罰金二五〇万円に、

同 光陽商事有限会社を罰金四五〇万円に、

同 横浜起業有限会社を罰金七五〇万円に、

同 有限会社一福商事を罰金四〇〇万円に、

同 瀬戸観光有限会社を罰金一、二〇〇万円に、

同 松山観光有限会社を罰金七〇〇万円に、

同 有限会社福岡城を罰金七五〇万円に、

同 西日本起業有限会社を罰金七〇〇万円に、

同 大栄観光株式会社を罰金一、三〇〇万円に、

被告人山村鉄夫を懲役一年六月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社楠本観光有限会社は、東京都台東区千束四丁目四三番九号に本店を置く資本金二、九五〇万円の有限会社、同光陽商事有限会社は、右同所(昭和五四年五月九日以前は千葉県佐倉市上座五五六番地五三)に本店を置く資本金三、四五〇万円の有限会社、同横浜起業有限会社は、神奈川県横浜市中区曙町一丁目五番地に本店を置く資本金一〇〇万円の有限会社、同有限会社一福商事は、神奈川県横浜市中区福富町西通四五番地の二(昭和五〇年一〇月六日以前は右同所、同五四年五月九日以前は、埼玉県新座市道場二丁目四番一号)に本店を置く資本金三五〇万円の有限会社、同瀬戸観光有限会社は、東京都台東区清川一丁目二四番一四号(昭和五四年五月三一日以前は、埼玉県新座市道場二丁目四番一号)に本店を置く資本金五〇万円の有限会社、同松山観光有限会社は、東京都台東区上野七丁目一〇番八号(昭和五一年一二月二四日以前は神奈川県横浜市中区寿町三丁目一〇番地一)に本店を置く資本金五〇万円の有限会社、同有限会社福岡城は、福岡県北九州市小倉北区舟町七一番地の七六に本店を置く資本金五〇万円の有限会社、同西日本起業有限会社は、東京都台東区上野七丁目一〇番八号に本店を置く資本金二、八〇〇万円の有限会社、同大栄観光株式会社は、東京都荒川区荒川六丁目三四番三号(昭和五二年七月三一日以前は広島県広島市弥生町六番一二号、同五三年四月三日以前は、神奈川県横浜市中区福富町西通四五番地の二、同五四年六月一八日以前は埼玉県新座市道場二丁目四番一号)に本店を置く資本金四〇〇万円の株式会社であって、いずれも個室付浴場の経営などを目的とする法人であり、被告人山村鉄夫は、右各被告会社の実質経営者として右各会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人山村鉄夫は、右各被告会社の業務に関し、各被告会社の法人税を免れようと企て、入浴料収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、各被告会社の別表記載の各事業年度における実際所得金額が同表記載のとおり(別紙(一)の(1)ないし(九)の(2)各修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、同表記載の申告日時に、同表記載の所轄税務署において、同税務署長らに対し、各被告会社の各事業年度の所得金額及びこれに対する法人税額がそれぞれ同表記載の申告所得金額及び申告法人税額である旨の虚偽の各法人税確定申告書をそれぞれ提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同表記載のとおり各被告会社の各事業年度における正規の法人税額(別紙(一〇)ないし(一八)各税額計算書参照)と右申告税額との差額をそれぞれ免れたものである。

(証拠の標目)(甲、乙番号は検察官請求の証拠番号甲一、乙を、弁は弁護人請求の証拠番号を各示す)

第一各被告会社につき

一  被告会社楠本観光有限会社の各登記簿謄本(甲1、弁53)

一  被告会社光陽商事有限会社の登記簿謄本(甲2)

一  被告会社横浜起業有限会社の各登記簿謄本(甲3、弁54)

一  被告会社有限会社一福商事の各登記簿謄本(甲4、弁55)

一  同じく閉鎖登記簿謄本(甲71)

一  被告会社瀬戸観光有限会社の登記簿謄本(甲5)

一  被告会社松山観光有限会社の登記簿謄本(甲6)

一  被告会社有限会社福岡城の登記簿謄本(甲7)

一  福岡地検小倉支部副支部長発信法務省専用電報写(甲73)

一  被告会社西日本起業有限会社の登記簿謄本(甲8)

一  被告会社大栄観光株式会社の登記簿謄本(甲9)

一  同じく閉鎖登記簿謄本(甲72)

第二全般につき

一  前掲第一記載の各証拠

一  被告人山村鉄夫の当公判廷における供述

一  被告人山村鉄夫の検察官に対する各供述調書(四通)(乙3ないし6)

一  山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月八日付、同年一一月九日付、同年一一月一〇日付、同年一一月一二日付、同年一一月一三日付各供述調書(甲57ないし60、62)

第三各被告会社分及び被告人山村鉄夫につき

〔被告会社楠本観光有限会社〕

判示事実別表番号1、2添付の別紙(一)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(楠本観光有限会社の入浴料収入の確定について)(甲10)

一 山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月一五日付供述調書(甲63)

一 木戸寿江子の検察官に対する昭和五四年一一月一五日付供述調書(甲64)

〈従業員給料〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(楠本観光有限会社における簿外経費について)(甲12)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(公表のタオルクリーニング代について)(甲13)

〈交際費〉

一 検察官木屋東一作成の捜査報告書(楠本観光有限会社における簿外経費について)(甲12)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲14)

〈事業税認定損〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

別紙(一)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社楠本観光有限会社の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一綴(当庁昭和五四年押第一九七〇号符1、2)

〔被告会社光陽商事有限会社〕

判示事実別表番号3、4添付の別紙(二)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(光陽商事有限会社の入浴料収入の確定について)(甲16)

〈従業員給料〉

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(光陽商事有限会社における簿外経費について)(甲17)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈交際費〉

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(光陽商事有限会社における簿外経費について)(甲17)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(公表のタオルクリーニング代について)(甲13)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲18)

〈損金算入延滞税(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の損金に算入していない利子税額調査書(甲19)

〈事業税認定損(昭和五三年二月期)〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

別紙(二)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社光陽商事有限会社の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一綴(前同押号符3、4)

〔横浜起業有限会社〕

判示事実別表番号5、6添付の別紙(三)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(横浜起業有限会社の売上金額の確定について)(甲20)

一 金世謙の検察官に対する昭和五四年一一月二日付供述調書(甲65)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(横浜商銀信用組合の仮名預金口座に預金された横浜起業有限会社ほかの各月の売上金額の確定について)(甲21)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(横浜起業有限会社の売上金の中より支払っていた経費の金額について)(甲22)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(簿外クリーニング代について)(甲24)

〈従業員給料〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(横浜起業有限会社の簿外経費について)(甲23)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(簿外クリーニング代について)(甲24)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲25)

〈事業税認定損〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

別紙(三)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社横浜起業有限会社の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一袋(前同押号符5、6)

〔有限会社一福商事〕

判示事実別表番号7、8添付の別紙(四)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社一福商事の売上金額の確定について)(甲26)

一 金世謙の検察官に対する昭和五四年一一月二日付供述調書(甲65)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社一福商事の売上金の中より支払っていた経費について)(甲27)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(横浜商銀信用組合の仮名預金口座に預金された有限会社一福商事ほかの各月の売上金額の確定について)(甲21)

一 山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月一二日付供述調書(甲61)

〈従業員給料〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社一福商事の簿外経費について)(甲28)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(簿外クリーニング代について)(甲24)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社一福商事の簿外経費について)(甲28)

〈雑収入(昭和五二年九月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲29)

〈繰越欠損金控除額(昭和五一年九月期)〉

一 押収してある被告会社有限会社一福商事の昭和五一年九月期法人税確定申告書一綴(前同押号符7)

〈申告欠損金(昭和五二年九月期)〉

一 押収してある被告会社有限会社一福商事の昭和五二年九月期法人税確定申告書一綴(前同押号符8)

〈事業税認定損(昭和五二年九月期)〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税の確定について)(甲15)

別紙(四)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社有限会社一福商事の昭和五一年九月期、同昭和五二年九月期各法人税確定申告書一袋(前同押号符7、8)

〔被告会社瀬戸観光有限会社〕

判示事実別表番号9、10添付の別紙(五)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(瀬戸観光有限会社の入浴収入の金額の確定について)(甲30)

一 奥山博久の検察官に対する昭和五四年一一月一五日付供述調書(甲66)

〈従業員給料〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(架空に計上した給料について)(甲31)

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(瀬戸観光有限会社における簿外経費について)(甲32)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(公表のタオル納品数について)(甲33)

一 収税官吏田中正人作成の簿外にした衛生費(タオル洗たく代調査書)(甲34)

〈租税公課(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏田中正人作成の法人税充当金および租税公課調査書(甲35)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏田中正人作成の除外した雑収入金額調査書(甲36)

〈法人税等充当額(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏田中正人作成の法人税充当金および租税公課調査書(甲35)

〈事業税認定損〉

検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

〈申告欠損金(昭和五三年二月期)〉

一 押収してある被告会社瀬戸観光有限会社の昭和五三年二月期法人税確定申告書一綴(前同押号符10)

別紙(五)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社瀬戸観光有限会社の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一袋及び一綴(前同押号符9、10)

〔被告会社松山観光有限会社〕

判示事実別表番号11、12添付の別紙(六)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(松山観光有限会社の入浴収入の金額の確定について)(甲37)

一 奥山博久の検察官に対する昭和五四年一一月一五日付供述調書(甲66)

〈従業員給料〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(架空に計上した給料について)(甲31)

一 検察官土屋東一作成の捜査報告書(松山観光有限会社における簿外経費について)(甲38)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(公表のタオル納品数について)(甲33)

一 収税官吏田中正人作成の簿外にした衛生費(タオル洗たく代)調査書(甲39)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏田中正人作成の除外した雑収入金額調査書(甲40)

〈事業税認定損〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

〈法人税利子税(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏田中正人作成の損金となる法人税利子税調査書(甲41)

〈申告欠損金(昭和五三年二月期)〉

一 押収してある被告会社松山観光有限会社の昭和五三年二月期法人税確定申告書一綴(前同押号符12)

別紙(六)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社松山観光有限会社の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一袋(前同押号符11、12)

〔被告会社有限会社福岡城〕

判示事実別表番号13、14添付の別紙(七)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社福岡城の売上金の確定について)(甲42)

〈交際費〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社福岡城の簿外経費について)(甲43)

〈従業員給料〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(有限会社福岡城の簿外経費について)(甲43)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 収税官吏斎藤茂作成の簿外衛生費(タオル洗たく代)調査書(甲44)

〈雑収入(昭和五三年二月期)〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲45)

〈損金算入地方税(昭和五二年二月期)〉

一 収税官吏斎藤茂作成の税金の納付にともなう是否認金額調査書(甲46)

〈納税引当金支払延滞税(昭和五二年二月期)〉

一 収税官吏斎藤茂作成の税金の納付にともなう是否認金額調査書(甲46)

〈事業税認定損〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

別紙(七)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社有限会社福岡城の昭和五二年二月期、同昭和五三年二月期各法人税確定申告書各一袋(前同押号符13、14)

〔被告会社西日本起業有限会社〕

判示事実別表番号15、16添付の別紙(八)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈入浴収入〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(西日本起業有限会社の売上金額の確定について)(甲47)

一 山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月一五日付供述調書(甲63)

〈従業員給料〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(西日本起業有限会社の簿外経費について)(甲48)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈衛生費〉

一 収税官吏斎藤茂作成の簿外の衛生費(タオル等の洗たく代)調査書(甲49)

〈交際費〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(西日本起業有限会社の簿外経費について)(甲48)

〈雑収入〉

一 収税官吏芦塚泰作成の除外した雑収入金額調査書(甲50)

〈損金の額に算入した延滞税(昭和五三年三月期)〉

一 収税官吏斎藤茂作成の53/3期税金納付等にともなう是否認金額調査書(甲51)

〈事業税認定損(昭和五三年三月期)〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

別紙(八)の(1)、(2)の各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社西日本起業有限会社の昭和五二年三月期法人税確定申告書一綴、同昭和五三年三月期法人税確定申告書一袋(前同押号符15、16)

〔被告会社大栄観光株式会社〕

判示事実別表番号17、18添付の別紙(九)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額について

〈売上高〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(大栄観光株式会社の入浴料収入の金額の確定について)(甲52)

一 石井充の検察官に対する昭和五四年一一月一六日付供述調書(甲67)

〈従業員給料〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(大栄観光株式会社の簿外経費について)(甲53)

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(大栄観光株式会社の架空給与について)(甲54)

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(事務手当の計上もれと架空に計上した給料について)(甲11)

〈交際費〉

一 検察官新庄一郎作成の捜査報告書(大栄観光株式会社の簿外経費について)(甲53)

〈雑費(昭和五二年一月期)・衛生費(昭和五三年一月期)〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(大栄観光株式会社の簿外クリーニング代について)(甲55)

〈雑収入(昭和五三年一月期)〉

一 収税官吏成田三男作成の除外した雑収入金額調査書(甲56)

〈事業税認定損〉

一 検察官岡崎芳高作成の捜査報告書(未納事業税額の確定について)(甲15)

〈申告欠損金(昭和五三年一月期)〉

一 押収してある被告会社大栄観光株式会社の昭和五三年一月期法人税確定申告書一綴(前同押号符18)

別紙(九)の(1)、(2)各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別公表金額及び過少申告の事実について

一 押収してある被告会社大栄観光株式会社の昭和五二年一月期、同昭和五三年一月期各法人税確定申告書各一綴(前同押号符17、18)

(被告会社松山観光有限会社にかかる入浴収入(昭和五二年二月期)について)

検察官は、被告会社松山観光有限会社にかかる昭和五二年二月期の入浴収入につき、実際額を七、四〇六万五、〇九四円としたうえで公表金額との差額たる除外額を四、六七〇万一、〇九四円と主張しているが、検察官土屋東一作成の捜査報告書(松山観光有限会社の入浴収入の金額の確定について)(甲37)によれば同事業年度の実際額は七、四〇六万五、〇四四円と認められ、他に検察官主張の実際額を認めるに足る証拠もないので、除外額は四、六七〇万一、〇四四円となるから、差引五〇円を本事業年度から控除することとした。

(確定判決)

被告人山村鉄夫は昭和五四年三月一五日横浜地方裁判所で売春防止法違反により懲役二年(四年間執行猶予)、罰金三〇万円に処せられ、右裁判は同年同月三〇日確定したものであって、右事実は検察事務官日比野弘作成の前科調書(乙2)によってこれを認める。

〔量刑の理由〕

(被告人に対し刑の量定において懲役刑につき「実刑」を相当とした理由)

本件量刑に際し、検察官は論告において被告人に対し、諸般の情状からして、その責任は重大であり、懲役刑の実刑に処すべきものと主張し、これに対し弁護人は、本件犯行の動機、経歴、家庭の状況、改悛の情があり再犯の虞れがないこと等を挙げ、一部納税している事実とともに、被告人の有利な情状を述べ、若し、実刑に処せられんか、納税に大きな支障を生じ税金の完納の危惧すら生じかねず、かつ、新たに起した事業も倒産の虞れ無しとしないと述べたうえ、本件は執行猶予に処すべきが相当の事案であると主張し、両者において鋭く対立している。

当裁判所は、後記のとおり、被告人に対する有利な情状をすべて考慮しても、なお、本件は懲役刑につき「実刑」に処するを相当にして、かつ、真にやむを得ないものと思料した次第である。

以下その理由を開陳することとする。

一  租税ほ脱犯(直接税)に対する処罰の基本的理念

(一)  わが国においては、昭和一九年頃までは、租税犯に対する処罰として税法罰則が採用していた刑罰は、一貫して罰金または科料による財産刑のみであり、いわゆる定額財産刑主義が採用されていた。そこで、租税犯に対する処罰は、一般刑事犯に対する処罰のように罪悪性を処罰するためのものではなく、国家に財政上の損失を生ぜしめないことを担保することを目的としていた。従って、それは国家の租税収入の確保という行政目的の遂行を担保せしめ、実質において、国家に対し損害を与えたものとして、その損害を賠償させることにあった。

しかしながら、昭和一九年の罰則の改正により、先ず間接税に自由刑及び両罰規定が採用された。更に、昭和二二年に至り、直接税に対し、これまでの「賦課課税方式」から、「申告納税方式」が採用され、これを契機に、直接税(法人税、所得税)においても自由刑及び両罰規定が採用されるに至った。そして右の定額財産刑主義が廃止されたため、租税ほ脱犯の自然犯化が顕著となり、ここに、責任主義に基づく刑事制裁という考え方が明確となった。すなわち、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目して、これに対して制裁として刑罰を科することになる。

従って、その意味において、租税犯処罰の目的は、右の「申告納税制度」との関連において理解すべきこととなる。すべて国民は納税の義務があり(憲法三〇条)、自己の責任において所得を計算し得られた税額を申告し納税しなければならないから、一人が免れれば他も免れようとするため、租税ほ脱犯は極めて悪質な伝播性の強い犯罪といえる。

そのため、かかる経済的利欲犯に対する刑罰は、脱税者の発生を防止するに効果的な刑罰でなければならないという特色がある。換言すれば、「正直に納税申告した者が馬鹿をみる」というようなことがないために一般予防の面として刑事制裁を科するという特質がある。

また、特別予防の面をも考慮する必要がある。それはほ脱犯に対して、営業目的、経歴、納税状態、ほ脱の動機、手段方法、罪証隠滅の有無、ほ脱税額、ほ脱率、申告率、犯則所得の使途、当該犯行関与の程度、再犯の虞れの有無(経理の改善)、改悛の情の有無等が刑の量定にあたり考慮すべき要素である。

右の両面をふまえたうえで量刑を判断すべきものであるが、租税ほ脱犯は、その基礎に「申告納税制度」が存在しているのであるから、従って、特に、(1)ほ脱にかかる不正手段の態様において、それが申告納税制度の根本を否定する程の反社会性、反道徳性を有するものであって、一般国民の納税意欲(納税倫理)に著しく支障を生ぜしめる程の悪質性が認められるか、(2)ほ脱税額が著しく多額か(ほ脱率)、その者が税制上優遇されているか、特に申告にかかる所得金額との開差が大きいか(申告率)の各事実の有無が刑の量定にあたり特に考慮されなければならない。後者については、特段の理由のない限り、納税者の意識において脱税許容度の高い者程、実際所得金額と申告所得金額との開差が大きくなると考えられるから、行為者の申告率の算定も納税に対する意識、反社会性の程度の判定に欠くことができないからである。

(二)  従来、租税ほ脱犯においては、有罪とされて科された懲役刑について、刑の執行猶予を付されることがそのほとんどであって、むしろ、併科された罰金刑によって、犯情により、ほ脱した税額と同額までの財産刑を科することによって金銭的制裁を加えることが刑政目的に合致する所以と説く者も少なくない。その背景には、かっての「賦課課税制度」以来の国庫に加えられた損害の賠償を図るという理念が根強く残っていたものともおもわれる。あるいは、租税ほ脱犯は、国家の国民に対する課税権、租税請求権を侵害するものであるとか、国家に対する詐欺であるという考え方もある。右によれば、被害が回復さえすれば法益侵害は修復されたとみられるから、脱税が発覚しても、行為者たる納税者において修正申告をなして納税し、併せて行政罰としての重加算税を納付し、刑事罰として罰金刑が科され損害が賠償されれば、国家の課税権は修復されたということになろう。

しかしながら、もし、所得秘匿行為の態様において、著しく反社会的、反道義的な行為、手段と認定できるものであり、かつ、そのほ脱した金額とを併せみれば、他への悪性の伝播性が窺われ、誠実な納税申告者をして、その納税意欲(納税倫理)を著しく阻害させる程の悪質性の認め得る限り、かかる行為者に対しては、責任主義に基づく刑事制裁としてそれ相当の懲役刑を科する必要があるといわねばならない。

けだし、脱税が発覚すれば、単に金を支払えばよいということであれば、法を軽視する風潮を生み、かえって懲罰の目的に背反する結果を生ずる虞れなしとしない。また、懲役刑についても、刑責の軽重の如何を問わず、一率に刑の執行猶予を付することになれば、犯罪と刑罰に関する一般社会の正義観念が損なわれ、法の尊厳性を危くさせることになる。換言すれば、租税法秩序の基礎である申告納税制度のもとに一般納税者の納税意欲(納税倫理)を著しく損わせ、誠実な納税者だけが馬鹿をみることとなるから、反社会性、反道徳性の強い事案に対しては、法の正義の観念からも刑の執行猶予は許されないといわねばならない。

納税はすべての国民の義務であり、租税は国民全体の利益の増進のために存するものであるから、その義務に違反することは、結局、国民全体の犠牲において、行為者のみが不当に利益を得ることになる。従って、租税ほ脱犯の被害者は、究極のところ国民全体であるといえるので、租税ほ脱犯の実質は反社会的犯罪であるともいえる。それ故に、租税ほ脱犯のうちでも社会的非難の強度なものに対しては、一般刑事犯と同様な重い刑責を負わすことも考慮する必要がある。

申告納税制度においては、納税者の申告した数額によって国の租税債権が確定する本質をもつ。納税は、国民全体の利益を増進せしめるために納税義務者各人に公平に求められるべき負担であるから、従って、国民は自己の責任において所得を計算し、誠実に納税申告をしなければならない。

そのために、申告納税制度は、一面において、たとえ、一人といえども他の納税者の犠牲において不当に利得することは許されないとする理念を有しているとともに、若し仮に、そのような者がいれば、それは公平な負担に反するものとして社会一般から強い非難を受けることが要請されているということを認識すべきである。

また、他面において、申告納税制度のもとでは、主権者としての納税者たる国民は、自己の納付した税金が、その後、果して国民全体の利益にすべて還元されるように、行政上正しく運用されているか、その使途を監視することができるといわねばならない。

これが、民主主義社会では「脱税は最悪の犯罪」といわれる所以であり、また、民主主義のもとにおける申告納税制度の構造なのである。

二  本件ほ脱犯の特質

(一)  (不正手段の態様と被告人の役割)

(1) 本件は、被告人において、叙上認定したとおり、個室付浴場(以下「トルコ風呂」という)を経営する各被告会社合計九社の実質経営者として業務全般を統括し、多額の入浴収入等の除外をなして所得を秘匿したうえ、虚偽過少申告行為に及んだものである。

本件公訴は、入浴料収入や雑収入の除外、家事使用人給与の被告会社への給料計上、架空給料等を捉え、これを所得秘匿の方法としたうえほ脱所得を算定しており、そこには法解釈上の疑義も存しない。

被告人は、各被告会社九社の名義上の代表取締役ではないのみならず、一切の役員にも就任せずして、その背後にいて本件脱税工作を指揮した。被告人は各被告会社九社の各店舗の従業員に、毎日「リスト表」なる用紙に真実の営業状況を記入させ、実際収支金額を記入したメモ等の記録を自宅に届けさせたうえ、経理担当者である妻山村一恵に命じて、各被告会社九社の売上金額につき公表経費を賄うに足る程度の金額だけを公表させ、その余の全部を除外させるとともに、入浴客数を把握されない様に、タオルのクリーニング代金等の一部を簿外経費とさせる等をし、前掲実際のリスト表、メモ、集計表等は廃棄させた。また、各店舗の総収入金額から営業店舗において支出した経費を差引いた残金は、すべて現金で自宅に集中せしめ、これを管理していたものである。

(2) 本件の特色は、実質経営者である被告人において、各被告会社九社を経営していながら、そのいずれについても代表取締役のみならず役員ともならず、一切の名義を伏せて、いずれも従業員や友人の名義にしていること、また、被告人の自宅において経営の集中管理をしながら、各会社を支店ともせず、更に、各被告会社の本店所在地をみると、各会社の営業店舗の所在地と全然かけ離れた場所に定めていることや、本店所在地を転々とさせていることがみられる点である(各被告会社登記簿謄本)。

これらにつき被告人は、先ず、被告会社九社の登記簿上代表取締役は勿論取締役にも名前を出していないことについて「トルコ風呂の経営というものは、売春防止法違反で警察の手入れを受ける危険がきわめて高く、名前を出しておれば売春防止法違反で責任を追及されるおそれが大きいと思ったことで、その他トルコ風呂経営の会社の代表者に名前を出していると社会的信用は落ちるし、他のまともな事業に踏み出す場合、銀行関係等の交渉の際マイナスになるのではなかろうかと思ったことなどから名前を出さなかったのです。」と供述していること(被告人の検察官に対する昭和五四年一一月六・七日付供述調書第三二項(乙3)、当公判廷における同旨の被告人の供述)、また、各被告会社をまとめて一つとし本支店としなかったことにつき、被告人は「売る時は一つ一つの方がいいということを考えていましたから、みんな纒めると売る時工合が悪い」と供述していること(第三回公判)、更に、各被告会社の本店所在地が営業店舗の所在地と異なる場所に設置してあることにつき、被告人は「これは、トルコ風呂経営をはじめるようになってから、トルコ風呂の先輩から、営業店舗の所在地と本店をかけ離れたところに置いておくと、会社の書類を営業店舗地に置かなくても良く、売春防止法違反など手入れを受けた場合など都合が良いとか、税務署の調査につき離れている方が都合がいい、などとアドバイスを受けたためです。」と供述していること(被告人の検察官に対する昭和五四年一一月九・一〇日付供述調書第二一項(乙4))や、当公判廷において、「一か所に纒めると、このようにいくつやっているのかということを思われたくないから」と供述し、更に、税金の面でも、一つ見付かっても他の方がバレない場合があるから都合がよいとアドバイスを受けたのでそうしたのか、という点についても、「それもありますけれど、一か所に纒めておくと、先程も申し上げたように具合が悪いんじゃないかという考えもあったのです。」と肯認していること(第三回公判廷における供述)の各事実を認めることができる。

また、被告人は当公判廷において、これらの各被告会社の株主又は社員につき、出資したのは現在のところ被告人一人であると述べ、かつ、会社というけれども、被告人自身の個人の事業だという意識が強かったのではないかとの問に対し「個人と会社の違いは税金の面で違うと思って会社にした訳なんです。」「経費とか何とか個人より会社の方が有利だ。」と供述している事実や、被告人が各会社から集中させた金につき「九社の金というよりは、私個人の金、私が自由に使える金という意識で管理運用していた。」(被告人の検察官に対する昭和五四年一一月九・一〇日付供述調書第一七項(乙4))と供述していること、被告人方に集中された各会社の金は、「会社毎に区分もせず、被告人夫婦の分も一諸くたにして、一つのどんぶりの中に全部つっ込んで、そこから使う形態を取っていた。」(山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月八日付供述調書第五項(甲57)との事実を認めることができる。

また、各被告会社の法人税確定申告書(前同押号符1ないし18)によれば、それらをみたのみでは、各会社がいずれもすべて被告人一人によって実質経営されていることを直ちに認めることは困難である。

以上の各事実並びに本件犯行前後の情況等を併せみれば、被告人において各被告会社を設立したり買収したりしたうえ、代表者としての名義人とならず、その背後に隠れたことは、そこにほ脱の意図をも明確に有していたものと認めることができるし、それは法人税法における税秩序を著しく乱したものであって、申告納税制度を破壊し、他の一般納税者の納税意欲(納税倫理)を失わしめる虞れが大であるといわざるを得ない。

(3) そもそも本件のように、各地に法人を設立し経営していながら、法人の代表者名義を自らは伏せており、各会社が全く別会社の如き外形をとっているとき、脱税が発覚し検挙されても、その一部の法人にとどまり、他は隠蔽される虞れが少なくなく、しかもその方法は容易に一般の納税者に模倣されて他へ伝播される虞れが極めて強いというべきである。

わが国における法人数は、本件犯行時の昭和五二年統計をみると、一三一万二、二二四社であるが、そのうち、同族会社は一二三万五、六七九社であって、資本金五〇〇万未満が全体の七〇パーセントを占め、しかも納税していない欠損法人は実に六四万四、四八〇社にのぼり、その割合は全体の四九・一パーセントと約半数を占めている。更に、昭和五三年分の欠損法人をみても六五万八、四九〇社であって、その割合は四八・八パーセントと、前同様約半数である(国税庁総務課編「昭和五二年分税務統計から見た法人企業の実態―会社標本調査結果報告―八頁、一五頁、一六三頁。昭和五三年分につき一五頁)。

このような欠損法人が半数近くもあるという実態は、営利を目的として設立するという法人の本質とは、ほど遠いものであって、それは被告人が当公判廷で供述するように、法人成りにすれば、税負担が少なくなると喧伝され、いわゆる“節税”の名のもとに税金対策のための“会社”が相当多いことを窺わせるものといえよう。

このような法人の実態の中にあって、被告人の所為を放置することは、右の“会社”に対し“法人にすれば税が安くなり有利である”という考え方が悪用され誤って増幅する危険がある。それは法人税法制度の秩序を乱し、公平負担に反し、遂には申告納税制度の破壊に連なる虞れなしとしない。

そもそも、法人を設立し自ら代表者となるということは、企業責任を自覚することを意味する。しかるに本件は、被告人において代表者とならず、自己の利欲のみを追及し、責任は免れようとする所為は、まさに法人制度に対する著しい挑戦といわざるを得ず、叙上、わが国における法人の実態をふまえるとき、本件の如き不正手段は、それら法人に対し強い伝播性を有する危険が極めて強い。

要するに、本件は、被告人において自己の利欲のみを追求することだけの道具として会社制度を利用したものともみうるのであって、法人税法の秩序を乱し、申告納税制度を根本から破壊することともなり、誠実な納税者の納税意欲(納税倫理)を失わしめる虞れが大であって、その責任はいたって重いといわざるを得ない。

(二)  (ほ脱税額、申告率)

本件は、被告会社九社合計一八事業年度でほ脱所得額六億六、三四六万五、六三六円、ほ脱税額において二億四、九〇二万一、〇〇〇円という著しい多額である。

これに対する申告所得は九社合計で、申告額六、〇一四万六、四八六円、欠損額一、七五一万五、〇七七円、差引申告所得額四、二六三万一、四〇九円、申告納税額一、八四一万七、〇〇〇円に過ぎない。そのほ脱率は約九四パーセントであり、申告率は約六パーセントである。

かかる事実をみると、納税義務を負う一般国民をして、誠実な納税意欲(納税倫理)を全く失わしめることは明らかである。

三  被告人の一般的情状

次に、被告人の情状として、(一)経歴、(二)本件犯行の動機、(三)税に対する認識の程度、(四)証拠隠滅行為の有無、(五)売上除外金の使途、(六)経理の状況(再犯の虞れの有無)等を各検討するとともに、被告人の有利な情状をも併せ検討してみよう。

(一)  経歴

被告人は、東京都城東区に生れ、昭和三六年頃から靴部品加工業を営んでいたが、同四四年頃、銀行借入金をもって台東区に在った有限会社クイン経営にかかるトルコ風呂一店を会社ごと買い取り、トルコ風呂の経営を始めるようになり、以後、売上除外金及び借入金を資金源として、東京、横浜、松山、北九州及び広島の各地に次ぎ次ぎとトルコ風呂店舗を経営する会社を設立し、または一部は既存の会社を買収し、各会社の実質経営者として業務全般を統括し現在に至っている。前記靴部品加工業は昭和四八年頃廃業した。なお、被告人は新宿にビルを建設し、レストラン等の営業を現に行なっている。

被告人は、元韓国籍であったが、昭和四八年一月に帰化している。被告人には、昭和四七年二月二二日売春防止法違反で懲役一年、三年間執行猶予、罰金三〇万円の前科がある。

ところで被告人には、昭和五四年三月一五日、横浜地方裁判所で売春防止法違反により懲役二年、四年間執行猶予、罰金三〇万円の判決言渡しを受けており、本件は、いずれも右判決確定前に犯された罪である(検察事務官日比野弘作成の前科調書(乙2))。

(二)  本件犯行の動機

弁護人は、被告人において、社会の底辺から浮び上るためには金が必要であり、一〇年間は大目に見て貰い度い気持から脱税をしたという心境こそ本件の実相を表わして余りあり、結果としては「自己の利益」の為とは云い得るかも知れぬが、動機において相当酌量されたいと主張し、また、本件犯行の動機は、トルコ風呂経営という世間体の悪い事業からまともな事業に転進するための資金を作るためにあったのであり、単なる私利私欲からの蓄財を目的としたものではないと主張する。

確かに、被告人の生い立ちにつき、同情を否定し得ない部分は窺われるとしても、一〇年間は脱税をしても酌量されるとする理由とはなんらなり得ないといわねばならない。

被告人は当公判廷において、次の事業への転進のための事業資金を獲得する手段として脱税をしたと弁解するが、新しい事業というも、結局、被告人自身の経営する利欲追求のための企業に過ぎない。世の多くの納税者が相当の税負担に耐えながら事業を経営している現状をふまえるとき、被告人の妻一恵において「私の目から見れば異常ともいえるほどにトルコの事業を拡大して店舗の数を増やし、お金もうけに執着し、脱税をするにしても、ほどほどのところでやめておくということはせず、私に経理をさせてかなりの脱税を続けておりました。そして私の忠告などぜんぜん聞き入れてくれず、突っ走しってしまい、……………」(山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月一〇日付供述調書第二項(甲59))旨の供述をみれば、本件は畢竟、被告人の私欲を充たすためということに尽きるといわざるを得ない。

(三)  税に対する認識の程度

被告人は「まともに申告していては(他の事業へ転進のための目的)のための資金が蓄積ができないと思ったため、悪いということがわかりながら、昨年の六月東京国税局の査察調査を受けるまで、各会社の売上の一部を除外することを続けていた。」(被告人の検察官に対する昭和五四年一一月六・七日付供述調書第二八項(乙3))と供述し、また、当公判廷においても脱税ということが利益にならないことが遅まきながらよく分った旨供述しており(第三回公判)、これと前掲本件申告率の著しい低率とを併せみれば、それは納税義務という観念が著しく稀薄であって、被告人の税に対する認識の程度を示すものといえる。

(四)  証拠隠滅行為

被告人は、国税局の調査に際し、「正直に話をし多額の税金を払うことになれば、今まで苦労して蓄積したことが水のあわとなり、かねての夢であったまともな事業への進出も難かしくなる、少しでも脱税の額を少なく主張して、蓄えたお金を税金でとられないようにしようという悪い考えを起こし」(被告人の検察官に対する昭和五四年一一月六・七日付供述調書第二九項(乙3))、架空の借入先をつくったり、調査対象年度前に多額の預金の存在を仮装工作するため取引金融機関に架空の証明をさせ(前同検察官調書(乙3))、売上メモ写しを秘かに保存していた妻一恵に対し、右メモが発見されたことに憤激し暴力を振い、その責を問い、メモについての言い訳や弁解を命じていた事実(山村一恵の昭和五四年一一月一〇日付供述調書第七項(甲59))等が認められる。

(五)  売上除外金等の使途

被告人は、本件売上除外金を以って、次々にトルコ風呂の設立または買収資金となし、また、昭和五一年四月頃から証券取引をなし、約二年の間に二億円以上の損失を蒙っている(被告人の当公判廷における供述、山村一恵の検察官に対する昭和五四年一一月一〇日付供述調書第二項(甲59))。

(六)  経理の状況(再犯の虞れの有無)

被告人は当公判廷において、本件犯行後、関与税理士を変え、近隣に居住する税理士に経理を担当せしめていると供述しているが、依然としてトルコ風呂を継続して経営しており、妻一恵が従前と同様に帳面をつけており(証人山村一恵の当公判廷における供述)、各地に散在する各被告会社の経理体制の改善ないし、被告人方への送金の金額の正確な把握のための改善策等につき、何らその方法が窺われず、再犯の虞れが全くないとはいえない。

(被告人の有利な情状)

翻って、被告人の有利な情状を検討するに

1  本件犯行をすべて認めていること

2  本件発覚後、各被告会社をして修正申告、再修正申告をなし、納税関係につき一部納付していること(弁7ないし16、28ないし52及び被告人の当公判廷における供述)

3  同種の前科のないこと

等の事情が存することは、被告人にとって有利な情状ということができる。

(責任の重さ)

以上のとおり、被告人の本件犯行の不正手段の態様、その役割、ほ脱税額、申告率のほか、本件犯行の動機、税に対する認識の程度、罪証隠滅の有無、売上除外金の使途、経理の状況等を考察し、その犯情を考慮するならば、叙上の被告人の有利な情状、及び弁護人の主張する種々の情状を充分配慮しても、なおその責任はいたって重いといわざるを得ない。

(結語)

当裁判所は、大要以上述べた諸般の情状を考慮し、結局、前記宣告刑を相当にして真にやむを得ないものと認め、かつ、被告人に対し刑の執行猶予を相当とする事由を見出し得ないと判断した次第である。

(法令の適用)

(一)  被告会社楠本観光有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金二五〇万円に処し

(二)  被告会社光陽商事有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金四五〇万円に処し

(三)  被告会社横浜起業有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金七五〇万円に処し

(四)  被告会社有限会社一福商事につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金四〇〇万円に処し

(五)  被告会社瀬戸観光有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金一、二〇〇万円に処し

(六)  被告会社松山観光有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金七〇〇万円に処し

(七)  被告会社有限会社福岡城につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金七五〇万円に処し

(八)  被告会社西日本起業有限会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金七〇〇万円に処し

(九)  被告会社大栄観光株式会社につき

判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同会社を罰金一、三〇〇万円に処し

(十)  被告人山村鉄夫につき

判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので所定刑中懲役刑をいずれも選択することとし、以上の各罪と前記確定裁判のあった罪とは刑法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪につきさらに処断することとし、なお、右の各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情が最も重いと認める判示別表番号18の罪の刑に法定の加重をし、その所定刑期の範囲内で被告人山村鉄夫を懲役一年六月に処することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤智)

別表

〈省略〉

〈省略〉

別紙(一)の(1)

修正損益計算書

楠本観光有限会社

自 昭和51年3月1日

至 昭和52年2月28日

〈省略〉

(一)の(2)

修正損益計算書

楠本観光有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(二)の(1)

修正損益計算書

光陽商事有限会社

自 昭和51年3月1日

至 昭和52年2月28日

〈省略〉

(二)の(2)

修正損益計算書

光陽商事有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(三)の(1)

修正損益計算書

横浜起業有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

(三)の(2)

修正損益計算書

横浜起業有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(四)の(1)

修正損益計算書

有限会社一福商事

自 昭和50年10月1日

至 昭和51年9月30日

〈省略〉

(四)の(2)

修正損益計算書

有限会社一福商事

自 昭和51年10月1日

至 昭和52年9月30日

〈省略〉

別紙(五)の(1)

修正損益計算書

瀬戸観光有限会社

自 昭和51年3月1日

至 昭和52年2月28日

〈省略〉

(五)の(2)

修正損益計算書

瀬戸観光有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(六)の(1)

修正損益計算書

松山観光有限会社

自 昭和51年3月1日

至 昭和52年2月28日

〈省略〉

(六)の(2)

修正損益計算書

松山観光有限会社

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(七)の(1)

修正損益計算書

有限会社福岡城

自 昭和51年3月1日

至 昭和52年2月28日

〈省略〉

(七)の(2)

修正損益計算書

有限会社福岡城

自 昭和52年3月1日

至 昭和53年2月28日

〈省略〉

別紙(八)の(1)

修正損益計算書

西日本起業有限会社

自 昭和51年4月1日

至 昭和52年3月31日

〈省略〉

(八)の(2)

修正損益計算書

西日本起業有限会社

自 昭和52年4月1日

至 昭和53年3月31日

〈省略〉

別紙(九)の(1)

修正損益計算書

大栄観光株式会社

自 昭和51年2月1日

至 昭和52年1月31日

〈省略〉

(九)の(2)

修正損益計算書

大栄観光株式会社

自 昭和52年2月1日

至 昭和53年1月31日

〈省略〉

別紙(十)

税額計算書

楠本観光有限会社

〈省略〉

別紙(一一)

税額計算書

光陽商事有限会社

〈省略〉

別紙(一二)

税額計算書

横浜起業有限会社

〈省略〉

別紙(一三)

税額計算書

有限会社一福商事

〈省略〉

別紙(一四)

税額計算書

瀬戸観光有限会社

〈省略〉

別紙(一五)

税額計算書

松山観光有限会社

〈省略〉

別紙(一六)

税額計算書

有限会社福岡城

〈省略〉

別紙(一七)

税額計算書

西日本起業有限会社

〈省略〉

別紙(一八)

税額計算書

大栄観光株式会社

〈省略〉

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